子どもの脳のポテンシャルを最も引き出す環境は何か

子どもの脳のポテンシャルを最も引き出す環境は何か

脳科学者 茂木健一郎氏が考える理想的な学び方とは?



2月某日、都内にあるトライリンガルスクールYES International Schoolの学校説明会及びトークセッションにお邪魔してきました。
トークセッションの書き起こし記事を公開する前に、プロローグとして、茂木健一郎氏へ取材させていただいたホームスクーリングについてのインタビュー記事を掲載させていただきます。

【聞き手】当協会理事 北本貴子


北本:お忙しい中、本日はお時間を頂きまして、ありがとうございます。
よろしくお願いいたします。

 

茂木:よろしくお願いします。ホームスクール支援協会っていう団体があるのですね。知りませんでした。とても良いですね!

 

北本:ありがとうございます。2000年に立ち上った協会です。最近はホームスクールへの世間への関心も増えてきたように感じています。
ここYES International Schoolさんもホームスクールをベースとした考えのカリキュラム導入をされるそうですね。茂木さんはYES International Schoolの理事もされていますが、なぜこの新しい教育の形に携わろうと思ったのですか?

 

茂木:もともと竹内(YES International School校長 竹内薫氏)とは学生時代からの友人です。彼があるとき自分で、この英語、日本語、プログラミング言語を使ったインターナショナルスクールを作るって言いだしたんです。
彼は日本と海外の教育を経験しているんですけど、ご自身のお子さんを通わせたいと思う教育環境が今の日本にないと言って学校を自ら創ると言い出した。それは大いに結構なことではないかということで賛同して、応援しています。

 

北本:新しい形の学び場でとても素敵だなと私も思っています。

 

茂木:僕の専門の脳科学からみても、今の時代で子どもの脳のポテンシャルを最も引き出す環境は何かと考えた時、やっぱり従来型の教科書を使って座学で一斉授業をするというやり方は良い環境だとは言えないなと思っています。

 

北本:茂木さんはブログやTwitterでもホームスクールについて肯定的な意見を発信してくださっていますね。

 

茂木:僕は海外に仕事でよく行くきますが、そこで友人からハーバード大学やMITの教授の子ども達は学校に行かないでホームスクールをしているという事例を聞きます。僕は教育のベストプラクティスを探すことにおいて脳科学の立場からもホームスクールはとても必要で、応援したいと思っています。

 

北本:ホームスクールとひとことで言っても、家庭により学び方は様々です。従来の学校で行うカリキュラムに沿って、学校で学ぶように学んでいくスタイル(スクールアットホーム)や、子どもの主体性に任せて行うアンスクーリングの家庭もある。その両者のハイブリット型や、家庭によってオリジナルな学び方を選択している人もいます。
茂木さんから見て、理想的な学び方はどんな学び方だと思いますか?

 

茂木:脳の研究をしている立場からすると、子どもが興味を持つことが学習のマテリアルだと思っています。
アクティブラーニングの考え方で行くと、何かに興味を持ってそれを深めていくと、自然に標準的な知識とかスキルがついていくわけですよね。例えば、子どもが身につけていくボキャブラリーにしても、いろんなことに興味を持って日本語でも英語でも文献を読んでいれば自然に語彙は見についていく。数理的な処理能力についても、定量的なプロジェクトをやろうと思うとどうしても計算しなければならない。そうすると自然に自分で色々な計算方法を学んでいく。
必ずしも教科書の通りにカリキュラムに従って学ぶことだけが大事ではないんです。
でも一方で教科書を否定する必要もなくて、もし子供が教科書に興味を持ったらその時は読めばいい。でもその時は学年にこだわる必要はない。

 

北本:その点ではホームスクールは選択が自由ですね。

 

茂木:我々の関連領域で、教育に関する研究論文を見ているととて面白いんですよ。
いま僕はホームスクーリングはアクティブラーニング、いわゆる探究学習で学んでいるという視点でお話していますけど、この学び方は落ちこぼれ(※1)がいなくなるんです。これは非常に興味深いことです。
なんで落ちこぼれが生まれるかというと、従来の教育環境では理解度に関係なくある一定のスピードで授業が進んでいってしまうからなんです。平均点とかではなく、どれくらい落ちこぼれの人がいるかという割合で見てみると、従来の教室で一斉に学ぶ学習よりも、自ら学ぶ学び方の方が落ちこぼれ率が劇的に下がるということも分かっているんです。これは当然ですよね。
例えば、物凄く言語能力や絵を描く力はある子が、分数の計算が苦手でも僕はいいと思うんですよね。極端な例になるかもしれないけど、中学2年生になっても分数の計算に取り組んでいる子がいても、僕はいいと思う。
今の時代はコンピューターが発展してAIが出てきているので、みんながみんな、分数出来る必要はないかもしれないんですよ。

 

北本:確かにホームスクールでは落ちこぼれという概念はないです。

 

茂木:ホームスクールの最大のメリットは、自分のペースで自分のやりたい学びを追求できるということではないでしょうか。

 

北本:本当にそうですね。ただその反面、自身の学びを追求するホームスクーラーは協調性が育たないと言われてしまうこともあります。

 

茂木:それは凄い誤解ですね。有名な事例でいえば、イギリスのアルマ・ドイチャーちゃんって子がいるんですけど、彼女は天才的な作曲家で9歳くらいの時からオペラをウィーンで発表していて、彼女が学校に行ったのは最初の3日だけ。それからは学校には行かずに家で縄跳びをしたり、作曲したり、本を読んだりして過ごしています。
彼女は明らかなギフテッド(※2)ですよね。
学校には行っていないけど、世界中の会場でオペラを演奏したり、BBCから取材を受けて対応したり、社交性も協調性もあるわけです。

 

北本:ホームスクーラーでも協調性は身につくのだという良い事例ですね。

 

茂木:恐らく、普通の学校で社会性や協調性を身につけるということは、ひとつのアプローチではあるけれども、唯一のアプローチではない。僕は不登校の子とよく会うんですけど「不登校」という言葉自体が否定から入っているように感じます。だから罪悪感に捉われている子が多い。
ご近所の方から「あの子学校に行っていないらしいよ」と噂されたり・・周囲からのプレッシャーで悩んでいる。だから僕はむしろ「ホームスクールはひとつの学び方ですよ」と強く主張することで、変な罪悪感を持たずに学びの機会を得ることが出来ればいいなと考えていますよ。

 

北本:ありがとうございます。当協会もそうやってホームスクールがひとつの学び方としてもっと広く認知してもらえるよう尽力していきます。
本日はお時間頂きありがとうございました!
トークセッションも取材させていただきます。引き続きよろしくお願いいたします。


※トークセッションの書き起こしは後日当サイトにて公開されます。

 

(※1)落ちこぼれ・・・ここでいう「落ちこぼれ」とは「一斉授業についていけない生徒」という意味合いで使用しています。「落ちこぼれ」は俗語でもともとはメディアなどで不登校生や引きこもりなどを指す言葉として用いられた言葉です。

(※2)ギフテッド・・・ギフテッドとは、知性、創造性、芸術性、リーダーシップ性、または特定の学問での偉業を成し遂げる能力のある個人を指す。またその能力を開花させるために特別なサポートを必要とする個人を指す。(初等中等教育法/落ちこぼれ防止法より)