「ホームスクールを行うといっても、どうやって進めたらいいのかわからない….。」
私たち日本ホームスクール支援協会には毎月そのようなお問い合わせがたくさん届きます。
極論、ホームスクールはとても自由なものですし、「こうしなければいけない」といったような決まりはありません。国内でも、不登校を楽しみながら行い、家族の力、助けを得ながら毎日義務教育課程を進めていらっしゃるお子さんたちがたくさんいます。
ですが、「最初の一歩」として、世界で一般的に理解されているアプローチ方法(=ホームスクールの進め方)を知っておくと、HS初心者のご家庭には心強いこともあると思います。
そこで今回は、数あるホームスクールスタイルの中から最も日本の教育事情にマッチしていると思われる「エクレクティックホームスクーリング」についてご紹介させていただこうと思います!
みんなで一緒にお勉強していきましょう。
本稿は、ケニアにてご夫婦でホームスクーリングに取り組まれていられる板倉由佳様からの寄稿を編集させていただいたものです。また、現在協会が作成しております『ホームスクール100の質問』から一部抜粋してお届けしております。板倉様、どうもありがとうございました。
板倉 由佳
兵庫県生まれ。2010年よりケニア在住。ケニア人の夫ニックさんと共に、子どもたち3人をホームスクーリングで育てるかたわら、質の高い教育とケニア人の若者への雇用提供を目指して、音楽と語学のオンライン学校〈ヒカリ音楽・語学学校〉を経営。このオンライン学校では、楽器や歌唱レッスンの他、英語、スワヒリ語などの語学のレッスン、英検対策指導やその他各科目のレッスンをケニア人・日本人講師から受けることができる。 ケニアだからこそ実現可能な低価格(音楽レッスンは30分1300円、語学レッスンは1時間1200円)で、現在では世界各国から生徒さんが集まっており、日本のホームスクーラーの子どもたちにアフリカや世界に目を向けるきっかけづくりとしても人気。■ヒカリ音楽・語学学校フェイスブック https://web.facebook.com/HikariMusicJapan/
■YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/c/HIKARISchoolofMusicNakuru
■お問い合わせは “hikarischoolofmusic@gmail.com” まで
エクレクティックホームスクーリング(EH)ってなぁに?
エクレクティックは英語で「折衷的な」という意味です。
「折衷(せっちゅう)案を考える」など、いくつかの物事の間に折り合いをつけて行うスタイルのホームスクーリングですね。ホームスクーリングでは、一般的に言われるいわゆるなお勉強(アカデミック)部分と子どもの興味や好きなことにとことん付き合うパーソナルな部分の良いところを組み合わせて(折衷して)いくようなスタイルとお考え下さい。
エクレクティックホームスクーリング(EH)では、義務教育課程で施される様々な学習を、お子さんの興味や成長段階と紐づけながら進めることができることから、大人も子どももストレスを感じづらく、日々の学習を楽しみながら行うことができます。
例えば、学校指定の教材が合わない場合でも、ホームスクールではお子さんと選んだ市販の教材を使用することでやる気を高めたり、学習に対する「楽しさ」を失わせないで取り組むことができることがEHの強みの一つです。
応用すれば、個々の強みや興味に基づく独自の指導をすることができます。実際のやり方は、ご家庭によってかなり異なりますが、子どもの興味や関心を一番よく知っている保護者がアレンジしながら学習に取り組めることはホームスクールを行う最大のメリットといっても過言ではないでしょう。
算数に苦手意識がある場合、「何をもって1とするか?」など、数の概念を理解することに躓いているお子さんがよくいますね。ホームスクールでは、教科書の数字だけにとらわれず、親子で料理や工作などの軽量、計測、四則計算を伴う作業を通して、学習の意味、ポイントを体験ベースで理解させることができます。保護者が、お子さんの『興味』と『学習』を紐づけることを強く意識したアプローチがエクレクティックスタイルの根幹です。
EHでは、親が子どもに特に重要、魅力的と思われる内容を選んで、深堀りして学習させていくことができます。また、家庭の生活や信条に合う学習内容や方法を選び、合わないものは省略するなど、自由に設計することができるのも魅力です。
グローバル化が進む中でも、国内の教育現場においては、地域差こそあれ、まだまだ宗教観の違いを含め、『人と違うこと・考え方』が認められづらい状況も散見されるので、このような部分的に必要なものを切り取って学習スタイルをアレンジしていくことも必要だと考えるご家庭は一定数いらっしゃるのではないでしょうか。
通常、子ども一人ひとりの個別対応が難しい学校現場にとっても、家庭のスタイルに合わせて学習内容を保護者と協力して設定することで子どもの成長をベストな形で見守ることができるメリットがありますね。
EHとアンスクーリングの違いは?
前述のとおり、ホームスクールにはいくつかのスタイルが存在します。特に、ホームスクールの中でも興味を持つ方の多い、アンスクーリングスタイルとの違いについてここでは触れていきます。
アンスクーリングとは、従来の学校教育のようなカリキュラムを持たず、「子ども主導の学習」であることが特徴です。もう一つの大きなスタイルであるアカデミックホームスクーリングが、様々な理由から学校教育を“ほぼ”そっくりそのまま家庭で行う「School at Home(おうちがっこう)」形式であることに対し、アンスクーリングでは「学校教育スタイル」から離れ、子どもがどういった学習を、いつどんな風に勉強するかを自分で選びます。ここでは両親は教師ではなく、ファシリテーターとして、子どもが独立して興味を追求する為に必要な教材や機会を揃えることが特徴です。
アカデミックホームスクーリングが学校教育を意識した「整理された受動的学習」なのに対してアンスクーリングは子ども本来の学び取る力に力点を置いた「自発的な学び」であると考えると、わかりやすいかもしれません。*双方、メリットやデメリットがあります。
本題のエクレクティックホームスクーリングは「折衷」の意味通り、伝統的な学校教育と、自由で決まりのないアンスクーリングのちょうど中間のようなものであると考えてください。
学習カリキュラムについては、子どもの興味に基づいて、親の責任の下、学習内容や教材を計画します。教材や教え方、時には学習の順序を入れ替えたり、特定の教科のみ一時的にスキップするなど子どもの興味合わせつつも、社会一般的な抑えるところはきちんとくまなく取り組んでいこう、という姿勢が特徴です。
保護者が日々のサポートを行いつつ、専門的な学習のプランニングは学校と連携して行うことなどができるため、担任教師などにとっても日々の成長が見えやすく、透明度の高いホームスクールとして学校現場からも理解されやすいことも大きなメリットといえます。まさに、公教育の拡張としてのホームスクールの形です。
EHの長所
ここでは、エクレクティックホームスクーリングの長所について列記していきたいと思います。
1)抑えるところは抑えるが、柔軟に対応できる :
エクレクティックホームスクーリングでは、学習させたい内容を子どもの興味の変化に柔軟に適応させることで、学習効果を高めることができます。成長過程に応じて今使っている教材やアプローチが合わなくなったら、その教材を全て終えずとも変更できますし、モチベーションを失わずに強化学習に取り組むことができます。
2)安価でわかりやすい:
通常、「ホームスクールを行う!」と考えるご家庭は、個々の教材を選んで購入することが多いです。しかし、学校で配られる教科書や副教材を使うだけで案外十分なケースも多いのが現実。最初からすべて買うのではなく、学校の進度に合わせて学習を進めつつ、学習のアプローチだけ変えてみる、と考えると非常に安価に行うことができることが特徴です。
「教材選び」に悪戦苦闘…時間だけが過ぎていき、子どもは全然学習してくれない…。なんてこともしばしば。でしたら、シンプルに教科書を使いながら「どうやったらうちの子に落ちるだろう?」「どんな体験と紐づけてみようか?」などと考える時間に使いたいですよね。
追加で教材を買う場合も、お子さんの興味に合わせた教材のみを購入するので無駄が少なくて済みますし、浮いたお金で興味に関連する本や体験を購入するほうがコスパがよさそうです。
3)病気や旅行などでも、安心:
厳密に毎日の学習量が決まっているアカデミックスタイルでは、病気や旅行で遅れが生じるとストレスになる場合があります。EHでは、学習計画を子どもと一緒にたてたり、柔軟に変更しながら進められるので勉強のお休み日や、反対にたくさん勉強する日を自由に決められます。保護者も積極的に学習計画に参入しますが、前述のとおり進度に関しては公教育のそれを意識しながらになりますので、多少の遅れも平常心で受け入れることができます。
EHの短所
エクレクティックホームスクーリングはよいことばかりのように聞こえますが、それなりに難易度も高いです。ここでは、EHを行う際に気を付けなければいけない点について触れていきます。
1)準備時間:
独自の学習計画を考えるには、すでにカリキュラムが組まれている市販の教材セット(チャレンジやZ会)を使うよりも準備が必要です。また、個々の子どもの関心に常に注意を払い、教材や方針を必要に応じて変えなければなりません。親が慣れてくるに従って、だんだん楽になりますが、慣れるまでは幾重にもわたる失敗と改良が必要です。
学習内容の設定は、ある程度大人の教育感度も高くないと難しいです。もし、ここにストレスを感じるのであれば、学習はチャレンジやすららなど、お子さんに合うもので外注にしてしまい、ホームスクーリングではたくさんの体験やお出かけに時間を使ってみる、といった潔い切り分けも大事かもしれないですね。
↓ ホームスクール家庭が使用している教材については、こちらもチェックしてみてください
2)両親の責任:
これは、どんなホームスクールスタイルにおいても言えることですが、「習っていないから知らない」ということが発生し、それによって子どもが学習に対して閉塞感を覚えてしまう場合、その責任は保護者にあります。
しかし、学校教育でも「習ったけど覚えてない」という事態はよく発生します。私達大人も知らないことはたくさんあり、都度調べながら普段生活しているのですから、この責任を重く考えすぎる必要はないと言えますが、学校以上に教育の責任を担う、といったことは意識したほうがいいポイントです。
まとめ
ホームスクーリングアプローチの中でも、特に柔軟かつ、学校からの理解を得やすいエクレクティックホームスクーリングについて紹介しました。
集団教育では真似できないEHの最大の魅力は、子ども一人一人の個性に基づいて学習を設計することにあります。
あなたのお子さんは何が好きですか?
興味関心に基づいて、「好き」や「得意」を伸ばし、子どもの持って生まれた強みと才能を引き出せるように日々楽しんでホームスクールを進めていきたいですね!
参考:
https://www.educationcorner.com/eclectic-homeschooling.html
https://www.time4learning.com/homeschooling-styles/